(2018年6月10日作成)(2024年5月30日再編集)

結論

・個人事業主の無担保無保証人融資は、融資について第三者を巻き込まないという意味となり、債務については無限責任としてご自身が返済していくこととなります。
・法人の無担保無保証人融資は、債務の踏倒しが理論上可能ということとなります。
・有限責任の法人というものは、経済発展のために人が作りだしたものであり、有限責任は原則となります。
・個人事業主の無担保無保証人と法人の無担保経営者保証有りがほぼ同じ意味であり、法人の無担保無保証人は一つ次元が違うことになります。
・近年はさらに、法人の無担保無保証人融資、つまり経営者保証をはずして創業者のリスクを減らして創業を活発化させていくべきという傾向が強まってきております。

下記で詳細を記述します。

日本政策金融公庫は個人事業主の無担保無保証人融資と法人の無担保無保証人融資の違いを明確に説明していません

Q4  個人での創業で融資申込するのと法人での創業で申込するのに違いはありますか。
A4
融資申込について、個人と法人とで大きな違いは特にありません(法人で申し込む際には履歴事項全部証明書または登記簿謄本が必要になるくらいです)。融資を受けるうえでどちらが有利ということはありません。

上記のようにさらっと記述しております。なぜこのようにさらっと記述しているのか、あくまで弊所の私見となります。

・法人の無担保無保証人融資であれば事実上の借金踏倒しが可能であることは説明がややこしくなるため避けている、わざわざ伝えるとややこしくなると考えている

と推測します。

開業、起業、創業者の開業当初の経営形態の選択

開業時の経営形態個人企業(%)法人企業(%)
2020年度新規開業実態調査61.638.4
2021年度新規開業実態調査61.338.7
2022年度新規開業実態調査60.539.5
2023年度新規開業実態調査60.439.6

(表1)開業当初の経営形態

個人で開業が60%
法人で開業が40%

となりました。上記の理由について弊所独自に分析しました。

・個人事業主は無限責任、法人は有限責任、そのリスクの違い、についての情報や考え方が世間に浸透していない
・法人を設立することがとにかくややこしい、法人税務申告は税理士が必要で費用が高いらしい、という考えのほうが浸透している
・以上から個人事業主のほうが簡単そうだから

ということで60%を占めていると解されます。

個人事業主の無限責任とは

個人事業主の無限責任とは下記となります。

・個人事業主Xが民間金融機関Aから1,000万円の融資をうけた場合の関係性
◎債務者→個人事業主X
◎債権者→民間金融機関A

個人事業主Xは事業で得た現預金のみで返済できないのであれば、生活用貯蓄財産からも返済しなければならなず、返済リスクはその財産すべてに及びます。ただむしろこのほうが常識的かつ理解しやすいかと思われます。

個人事業主の無担保無保証人とは

個人事業主が無担保で融資をうけるとは、融資をうける際に担保を提供しなくてよい、というわかりやすい話です。

次に無保証人ですが、まず金融機関融資における保証人は連帯保証人という意味での保証人となります。

金融機関融資における保証人とは

そうすると当然ですが個人事業主の融資に保証人が必要と言われれば、債務者であり個人事業主であるご自身以外の第三者である他人を連帯保証人として連れてくることになります。

・個人事業主Xが民間金融機関Aから1,000万円の融資をうけ、連帯保証人がいる場合の関係性
◎債務者→個人事業主X
◎債権者→民間金融機関A
◎連帯保証人→第三者の他人a

これも当然の話だろうというご指摘があるかと思いますが、ただ後述する法人の場合には、連帯保証人として代表者を連れてくる、というややこしい説明が発生します。そこで混乱しないためにも改めてご理解お願いいたします。

そうすると個人事業主の無保証人は、第三者の他人を連れてこなくても融資が受けられることである、となります。

個人事業主の無担保無保証人のまとめ

個人事業主の無担保無保証人をまとめますと、

個人事業主の無担保無保証人融資とは、個人事業主が担保を提供することなくかつ無関係の第三者の連帯保証人を連れてこなくても融資をうけることができること

となります。

法人の有限責任とは

こちらのページをご参考ください。

金融機関融資における保証人とは

まず法人と法人の代表者はあくまで別人格であり、一緒であるというイメージは捨ててください、ということをお伝えいたします。まず借入の話は出てこない法人の例で説明します。

・法人Aは代表者Xの法人であり、資本金は300万円であった
・代表者Xは、資本金300万円のお金が続く限り事業を継続し、もし仮にお金が尽きたら廃業しようという方針であった

法人Aは残念ながら廃業となりました。この場合、代表者Xは300万円を失っただけ、となります。これが有限責任という仕組みです。

法人の無担保無保証人とは

法人が無担保で融資をうけるとは、融資をうける際に担保を提供しなくてよい、というわかりやすい話です。

次に無保証人ですが、まず金融機関融資における保証人は連帯保証人という意味での保証人となります。

金融機関融資における保証人とは

ここで法人と法人代表者は別人格であることの再認識をお願いいたします。

そうすると法人の融資に保証人が必要と言われれば、①法人代表者が連帯保証人となる方法、②法人代表者以外の第三者である他人を連帯保証人として連れてくる方法、が存在すると解されます。ここが個人事業主と異なります。個人事業主は②の方法しか存在しません。

そうなると、法人の無保証人融資とは①も②も求められない融資、となります。無保証人融資で返済不能となった場合は借入はどうなるの?ですが、返済できずに終了となり、法人代表者の個人的な資産からの返済は不要となります(あくまで理論を説明しているだけで推奨しているわけではありません

法人の無担保無保証人のまとめ

法人の無担保無保証人をまとめますと、

法人の無担保無保証人融資とは、法人が担保を提供することなく、法人代表者が法人の連帯保証人にならなくてもよく、無関係の第三者の連帯保証人を連れてこなくても融資をうけることができること

となります。

個人事業主の無担保無保証人と法人の無担保経営者保証有りがほぼ同じ意味・条件・現象・次元であり、法人の無担保無保証人は一つ次元が違う

ここまでをまとめますと、

個人事業主の無担保無保証人≒法人の無担保経営者保証有り

となります。つまり

・個人事業主の無担保無保証人=個人事業主は借入に対して個人的な全財産からも返済しなければならない
・法人の無担保経営者保証有り=法人代表者は借入に対して個人的な全財産からも返済しなければならない

となります。一方で

・法人の無担保無保証人=法人が返済不能となればそれで終了、法人代表者の個人的な財産には請求されない

となります。

個人事業主及び法人について第三者保証人はすでに禁止されており、法人の無担保無保証人融資を国が推し進めております

第三者保証人や経営者保証の歴史改革内容日本政策金融公庫(政府系)信用保証協会(政府系)民間金融機関
~平成18年(2006年)3月31日・個人事業主、第三者保証人は存在していたと思われる
・法人
◎第三者保証人は存在していたと思われる
◎経営者保証無しの割合、不明
・個人事業主、第三者保証人は存在していたと思われる
・法人
◎第三者保証人は存在していたと思われる
◎経営者保証無しの割合、不明
・個人事業主、第三者保証人は存在していたと思われる
・法人
◎第三者保証人は存在していたと思われる
◎経営者保証無しの割合、不明
平成18年(2006年)3月31日中小企業庁通達、信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止。政府系金融機関では、例外的な対応を除いて第三者からの保証人徴求は行っていない。
平成18年(2006年)3月31日~平成23年(2011年)7月14日・個人事業主、第三者保証人の原則禁止
・法人
◎第三者保証人の原則禁止
◎経営者保証無しの割合、不明
・個人事業主、第三者保証人の原則禁止
・法人
◎第三者保証人の原則禁止
◎経営者保証無しの割合、不明
・個人事業主、第三者保証人は存在していたと思われる
・法人
◎第三者保証人は存在していたと思われる
◎経営者保証無しの割合、不明
平成23年(2011年)7月14日金融庁は、金融機関が企業へ融資する際に、経営者以外の第三者の個人連帯証を求めないことを原則とする旨の監督指針の改正
平成23年(2011年)7月14日~平成26年(2014年)2月1日・個人事業主、第三者保証人の原則禁止
・法人
◎第三者保証人の原則禁止
◎経営者保証無しの割合、不明
・個人事業主、第三者保証人の原則禁止
・法人
◎第三者保証人の原則禁止
◎経営者保証無しの割合、不明
・個人事業主、第三者保証人の原則禁止
・法人
◎第三者保証人の原則禁止
◎経営者保証無しの割合、不明
平成26年(2014年)2月1日これらの課題の解決策として、全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン(以下、「ガイドライン」とする)」を策定した(平成25年12月5日公表、平成26年2月1日適用開始)経営者保証に依存しない融資の一層の促進が明記された
平成26年(2014年)2月1日~令和4年(2022年)12月23日・個人事業主、第三者保証人の受付停止
・法人
◎第三者保証人の受付停止
◎経営者保証無しの割合19%
・個人事業主、第三者保証人の受付停止と思われる
・法人
◎第三者保証人の受付停止と思われる
◎経営者保証無しの割合、不明
・個人事業主、第三者保証人の原則禁止
・法人
◎第三者保証人の原則禁止
◎経営者保証無しの割合12%
令和4年(2022年)12月23日経済産業省、金融庁、財務省、経営者保証改革プログラム。金融庁は、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を更に加速させるため、経済産業省・財務省とも連携の下、「経営者保証改革プログラム」を策定しました。・個人事業主、第三者保証人の受付停止
・法人
◎第三者保証人の受付停止
◎経営者保証無しの割合52%
・個人事業主、第三者保証人の受付停止と思われる
・法人
◎第三者保証人の受付停止と思われる
◎経営者保証無しの割合29%
・個人事業主、第三者保証人の原則禁止
・法人
◎第三者保証人の原則禁止
◎経営者保証無しの割合33%
令和4年(2022年)12月23日~令和6年(2024年)3月15日データ未取得データ未取得データ未取得
令和6年(2024年)3月15日法人である中小企業者が、一定の要件を満たした場合に、保証料率の上乗せを条件に保証人による保証を提供しないことを選択できる信用保証制度等を創設し、2024年3月15日から取扱いを開始します。データ未取得データ未取得データ未取得
令和6年(2024年)3月15日~

(表2)第三者保証人や経営者保証の歴史

上記の表の重要論点を抜粋します。

・政府系金融機関も民間金融機関も無関係な第三者を連帯保証人とすることは禁じられており減少傾向にあります
・法人融資について無保証人の割合(経営者保証無しの割合)が令和4年までで急増しており、さらに今後急増していく流れになります。
・国は、借入の踏倒しリスクはあるものの、それを上回るほど、起業、開業、創業を推し進めて国の経済を活性化させようという意気込みを感じます。

法人の有限責任は卑怯、セコイ、ずるいというお気持ちでしょうか?もしそうならあなたも法人で創業にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?創業は借入以外のリスクも負っています

法人の無保証人融資は、ずるい、セコイ、卑怯、という感想をお持ちでしょうか?しかしながら、もし仮に借金を踏倒したところでその人が得するわけではありません。借入以外にも様々な困難を経験したことでしょう。決して楽したり楽しかったわけではありません。融資のお金を着服して貯金したわけでもありません、戦って敗れて傷ついてしまっただけです。

まとめ

無限責任である個人事業主の無担保無保証人融資と有限責任である法人の無担保無保証人融資の違いについて、とくに法人の無保証人融資の意味についての正確な理解をよろしくお願いいたします。