(2017年11月10日作成)(2024年5月31日再編集)
結論
日本政策金融公庫の創業融資及び自治体制度融資の創業融資並びに民間金融機関のプロパー融資の創業融資を同時複数併願申請することは理論上可能であるが実質的に無意味かつ不可能と解されます。
下記で詳細を記述します。
一般貸付かつプロパー融資で同時複数併願申請することと創業融資とではべつものであることの再認識をお願いいたします
ここでまず、プロパー融資の意味について説明します。プロパー融資とは、金融機関が事業融資を行う場合において、信用保証協会の保証等がなく金融機関の責任100%で実行すること、と言われています。むしろ、プロパー融資=みなさんがイメージしている融資、と思われます。
ここであるXという事業者が1,000万円の融資を希望しているとします。そして成功率を高めるために複数の金融機関に複数のプロパー融資を希望すると考えるのではないか、と考えるのは自然と思われます。
例えば、
A銀行に1,000万円を申請する
B銀行に1,000万円を申請する
C銀行に1,000万円を申請する
D銀行に1,000万円を申請する
A~D、いずれかのプロパー融資の申請が成功すれば1,000万円借入ができます。また次の例として
A銀行に1,000万円を申請する→200万円しか借りることができなかった
B銀行に1,000万円を申請する→200万円しか借りることができなかった
C銀行に1,000万円を申請する→200万円しか借りることができなかった
D銀行に1,000万円を申請する→200万円しか借りることができなかった
A~D、それぞれ200万円しか借りることができなかったが合計で1,000万円借りることができた、となる可能性も考えられます。
以上から、融資は同時複数申請すればするほど借りることができる金額が増加すると考える方は多いと思われます。では創業融資においてはどうなのか考えてみます。
創業融資を同時複数併願申請することは理論上可能という点について
創業融資を同時複数併願申請することは理論上可能という点については下記となります。
・日本政策金融公庫の創業融資=日本政策金融公庫が申請者Xを独自に審査=いわば日本政策金融公庫のプロパー融資ともいえる
・自治体制度融資の創業融資=自治体・保証協会・民間金融機関Aが申請者Xを独自に審査=日本政策金融公庫とは何ら関係しない申請となる
・民間金融機関Bのプロパー融資の創業融資=民間金融機関Bが申請者Xを独自に審査=日本政策金融公庫及び民間金融機関Aとは何ら関係しない申請となる
以上から創業融資の同時複数併願申請は理論上は可能と解されます。
創業融資を同時複数併願申請することは理論上可能であるが実質的に無意味かつ不可能であることの仕組み構造について
創業融資を同時複数併願申請することは理論上可能であるが実質的に無意味かつ不可能であることの仕組み構造について、結論は下記となります。
・日本政策金融公庫が協調融資として提携している金融機関が増加しており、公庫と当該提携金融機関が申請者の情報を共有することにより併願申請が無効化されます。
・仮に複数同時併願申請が成功したとしても、後日民間金融機関に決算書を提出した場合に、複数同時併願申請していたことが発覚し直ちに問題になる恐れがあり、直ちに問題にならなかったとしても今後の融資審査に悪影響がでる可能性が高いと解されます。
ここで申請者Xの前提条件を設定します。
◎申請者X
◎申請者Xは創業融資として基本的には500万円の借入を希望している。
◎しかし申請者Xは、安全対策として、可能であるならば、1,000万円、1,500万円借入したい、と考えている
◎そこで、申請者Xは日本政策金融公庫へ500万円の創業融資申請、自治体制度融資として民間金融機関Aへ500万円の創業融資申請、民間金融機関Bへ500万円のプロパー融資として創業融資申請、を申し込んだ
という前提条件とします。
・日本政策金融公庫が協調融資として提携している金融機関が増加しており、公庫と当該提携金融機関が申請者の情報を共有することにより併願申請が無効化されます。について検証します。
日本政策金融公庫は申請者Xから500万円の創業融資の申請を受け、公庫単独で500万円を検討したが、民業圧迫という批判をうけていることもあり、民間金融機関Bに対して申請者Xについて協調融資のお誘いのために連絡したとします。すると、民間金融機関Bからは「申請者Xという人物からは我々に対してもプロパー融資で申請がきている」という情報共有が発生しると解されます。そうすると
・申請者Xは500万円の創業融資で起業する計画のはずなのに合計で少なくとも1,000万円以上借入しようと試みている
・同時複数申請していることは聞いていない
・創業計画に疑義、疑惑、不信感が生じて、申請を却下せざるを得ない
このような状況となる可能性が高いです。
・仮に複数同時併願申請が成功したとしても、後日民間金融機関に決算書を提出した場合に、複数同時併願申請していたことが発覚し直ちに問題になる恐れがあり、直ちに問題にならなかったとしても今後の融資審査に悪影響がでる可能性が高いと解されます。について検証します。
上記の同時複数併願申請が成功すると申請者Xの決算書、貸借対照表には下記が記載されます。
・日本政策金融公庫からの借入金500万円
・民間金融機関Aからの自治体制度融資の借入金500万円
・民間金融機関Bからのプロパー融資の借入金500万円
ここで、民間金融機関A、民間金融機関Bについては、後日決算を迎えたときに、決算書の提出を求めてくるはずです。なお日本政策金融公庫は決算書を求めることが少ないと言われています。こちらのページをご参考ください。
実質的に創業融資の申請先は日本政策金融公庫の一択であることについて
この決算書の提出により「同時複数併願申請」をしていたことが明るみになると解されます。そうなると下記の恐れがあります。
・創業融資時点での同時複数併願申請を告知しなかった告知義務違反により一括返済を求められる恐れがある
・一括返済の要求は無かったとしても、信用は無くなり、今後の融資が一切受けられないブラックリスト者扱いになる恐れがある
となります。
以上が解説となります。
書籍の記述
上野光夫「事業計画書は1枚にまとめなさい」(2019年第2刷)p78に下記の記述があります。
また「両方を併用できるか」という点については、できないとは言い切れませんが、基本的にはやめたほうがいいというのが私の回答です。現実としては、公庫と制度融資は直接情報のやりとりをしていないので、両方の融資を同時期に利用することは可能です。しかしそれでは同じ創業計画で同じ資金の使途なのに、二重に公的な融資をうけたことになります。すぐに支障を来すことはありませんが、後々どこかのタイミングで公庫あるいは信用保証協会に知られてしまった場合、信用を大きく失墜してしまいます。
どうしても多額の金額を創業融資で借りたい場合は協調融資が王道となりますが困難さやデメリットもあります
では、多額の借入を行うためにはというと、日本政策金融公庫を通して民間金融機関との協調融資を希望することになります。しかし、下記の困難さやデメリットが発生すると解されます。
・多めに借りたいとしても金額の使途を明確にしなければ申請できない
・協調融資になると審査のハードルが上がる
となります。やはり、必要最低限の借入が望まれます。
まとめ
創業融資の複数同時併願申請は実質的に不可能と解されます。