(2024年6月4日作成)

結論

・当該論点については弊所独自の視点及び見解となります。
・見込み仕入経費払いが先行する事業とは、材料や商品を先に仕入ておかなければならず、また従業員も先に揃えておかなければならない事業と定義付けます。
・見込み売上が先行する事業とは、売上の見込みが立ってから仕入経費を発注しても間に合う事業と定義付けます。
・その中間のような事業も存在すると解されます。
・弊所の本見解を当てはめて、日本政策金融公庫創業計画書記入例を分析すると、疑義が生じる記入例が存在しました。
・当該視点から見れば、飲食店はむしろ運転資金融資が多額に必要と思われますが、一般常識は反対のようです。

下記で詳細を記述します。

当該論点については弊所独自の視点及び見解となります

当該論点について、書籍やネット記事で記述は見つけられませんでした。しかし、下記の説明を見ていただければ納得いただけると思われます。

見込み仕入経費払いが先行する事業とは

・定義
売上相手先が見つかってから、お客さんが来店してから、仕入れや従業員を雇用しても間に合わない事業と定義付けます。

・具体的な事業(日本政策金融公庫の創業計画書記入例より)
◎洋風居酒屋
◎美容業
◎中古自動車販売業
◎婦人服・子供服小売業
◎ソフトウェア開発業
◎歯科診療所
◎介護サービス

・事業を振り分けた根拠
◎洋風居酒屋、仕入材料及び従業員を先に揃えておかなければ間に合わない
◎美容業、従業員を先に揃えておかなければ間に合わない
◎中古自動車販売業、仕入商品を先に揃えておかなければ間に合わない
◎婦人服・子供服小売業、仕入商品を先に揃えておかなければ間に合わない
◎ソフトウェア開発業、システム開発に最低3カ月かかるため、つなぎ資金が必要と記述があります
◎歯科診療所、従業員を先に揃えておかなければ間に合わない
◎介護サービス、従業員を先に揃えておかなければ間に合わない

これらの事業は、運転資金は最低3カ月必要と解されます。

見込み売上が先行する事業とは

・定義
売上の見込みが立ってから仕入経費を発注しても間に合う事業と定義付けます。

・具体的な事業(日本政策金融公庫の創業計画書記入例より)
◎内装工事業

・事業を振り分けた根拠
◎内装工事業、内装工事先を受注してから仕入材料や外注費を計上しても間に合うと解されます。

これらの事業は、運転資金は1か月分でも乗り切ることは可能と解されます。

中間のような事業

・定義
売上の見込みが立ってから仕入経費を発注しても間に合う場合もある事業と定義付けます。

・具体的な事業(日本政策金融公庫の創業計画書記入例より)
◎学習塾

・事業を振り分けた根拠
◎学習塾、生徒数が増加していく段階を見ながら従業員を雇用しても間に合うケースもあると解されます。

これらの事業は、運転資金は1か月分でも乗り切ることは可能と解されます。

弊所の本見解を当てはめて、日本政策金融公庫創業計画書記入例を分析すると、疑義が生じる記入例が存在しました

日本政策金融公庫創業計画書記入例の運転資金の金額と事業の見通し仕入経費との整合性を弊所独自の視点から検証記入例運転資金金額(万円)弊所独自の視点から算出の必要運転資金
・見込み売上先行=記入例事業の見通し創業当初仕入+経費合計(代表者・専従者給与除く)×1か月
・見込み仕入経費先行=記入例事業の見通し創業当初仕入+経費合計(代表者・専従者給与除く)×3か月
記入例運転資金金額妥当性の判定
洋風居酒屋見込み仕入経費先行290657運転資金不足
美容業見込み仕入経費先行160141妥当する
中古自動車販売業見込み仕入経費先行620861運転資金不足
婦人服・子供服小売業見込み仕入経費先行275477運転資金不足
ソフトウェア開発業見込み仕入経費先行920729妥当する
内装工事業見込み売上先行事業445356妥当する
学習塾中間21036妥当する
歯科診療所見込み仕入経費先行345510運転資金不足
介護サービス見込み仕入経費先行625555妥当する

(表1)日本政策金融公庫創業計画書記入例の運転資金の金額と事業の見通し仕入経費との整合性を弊所独自の視点から検証

下記においてそれぞれ分析コメントを記述します。

・洋風居酒屋
◎材料仕入について、お客さんが店に来店してから材料を買いにいくことでは間に合わない
◎人件費について、お客さんが来なかったとしても来た時のために従業員は先に雇用しておかなければならない
◎創業当初売上原価仕入87万円、経費合計142万円(うち専従者給与10万円)という見本記述
◎したがって、運転資金は(87+142-10)×3カ月=657万円必要というのが弊所独自の見解です。
◎しかし、記入例は290万円しか計上されておらず、運転資金不足と解されます。

・美容業
◎材料仕入について、飲食業に比べれば消費期限が長い分ロスのリスクは低い
◎人件費について、お客さんが来なかったとしても来た時のために従業員は先に雇用しておかなければならない
◎創業当初売上原価仕入15万円、経費合計42万円(うち専従者給与10万円)という見本記述
◎したがって、運転資金は(15+42-10)×3カ月=141万円必要というのが弊所独自の見解です。
◎記入例は160万円計上されており妥当すると解されます。

・中古自動車販売業
◎商品仕入れについて、商品を並べるためまず仕入れなければならない
◎人件費については、仕事量の増加に伴う雇用と思われます
◎創業当初売上原価仕入240万円、経費合計55万円(うち専従者給与8万円)という見本記述
◎したがって、運転資金は(240+55-8)×3カ月=861万円必要というのが弊所独自の見解です。
◎しかし、記入例は620万円しか計上されておらず、運転資金不足と解されます。

・婦人服・子供服小売業
◎商品仕入れについて、小売業であるため商品を並べるためまず仕入れなければならない
◎人件費については、お客さんが来なかったとしても来た時のために従業員は先に雇用しておかなければならない
◎創業当初売上原価仕入117万円、経費合計42万円(うち専従者給与0万円)という見本記述
◎したがって、運転資金は(117+42-0)×3カ月=477万円必要というのが弊所独自の見解です。
◎しかし、記入例は275万円しか計上されておらず、運転資金不足と解されます。

・ソフトウェア開発業
◎売上原価=外注費について、システム開発に3カ月かかると記述があり先行して支出となります
◎人件費について、システム開発に3カ月かかると記述があり先に雇用しておく必要があります
◎創業当初売上原価仕入90万円、経費合計198万円(うち代表者給与45万円)という見本記述
◎したがって、運転資金は(90+198-45)×3カ月=729万円必要というのが弊所独自の見解です。
◎記入例は920万円計上されており妥当すると解されます。

・内装工事業
◎売上原価=材料費、外注費について、売上注文を受注してからの発注となります
◎人件費について、売上注文を受注してからの雇用でも間に合うケースも存在すると解されます
◎創業当初売上原価仕入260万円、経費合計126万円(うち代表者給与30万円)という見本記述
◎したがって、運転資金は(260+126-30)×1カ月=356万円必要というのが弊所独自の見解です。
◎記入例は445万円計上されており妥当すると解されます。

・学習塾
◎売上原価のかからない事業となります
◎人件費について、生徒数が増加してからの雇用でも間に合うケースも存在すると解されます
◎創業当初売上原価仕入0万円、経費合計41万円(うち代表者給与5万円)という見本記述
◎したがって、運転資金は(0+41-5)×1カ月=36万円必要というのが弊所独自の見解です。
◎記入例は210万円計上されており妥当すると解されます。

・歯科診療所
◎仕入れについて、患者が来る前から仕入れ先行となりますが消費期限は長くリスクは低い
◎人件費については、患者が来なかったとしても来た時のために従業員は先に雇用しておかなければならない
◎創業当初売上原価仕入42万円、経費合計128万円(うち専従者給与0万円)という見本記述
◎したがって、運転資金は(42+128-0)×3カ月=510万円必要というのが弊所独自の見解です。
◎しかし、記入例は345万円しか計上されておらず、運転資金不足と解されます。

・介護サービス
◎仕入れについて、要介護者が来る前から仕入れ先行となりますが消費期限は長くリスクは低い
◎人件費については、要介護者が来なかったとしても来た時のために従業員は先に雇用しておかなければならない
◎創業当初売上原価仕入17万円、経費合計188万円(うち代表者給与20万円)という見本記述
◎したがって、運転資金は(17+188-20)×3カ月=555万円必要というのが弊所独自の見解です。
◎記入例は625万円計上されており妥当すると解されます。

当該視点から見れば、飲食店はむしろ運転資金融資が多額に必要と思われますが、一般常識は反対のようです

こちらのページをご覧ください。

日本政策金融公庫の運転資金融資申請目安限度額が存在しますのでご注意ください

改めて記述しますと下記となります。

上野光夫「事業計画書は1枚にまとめなさい」(2019年第2刷)p198より下記の記述です。

たとえば「現金商売」といわれる飲食業など回収が「即金」主体の事業は、1~2カ月分程度しか融資してくれない傾向にあります。支払いよりも先に現金が入ってくるので、それほど運転資金が必要ないと判断されるからです。一方、介護保険からの入金が主体の介護事業などの場合は、売上金の回収まで長期を要するので、場合によっては半年分など多くの融資がうけられることがあります。

しかし、弊所は上記の記述には同意できません。理由は下記です。

・売掛金の回収、買掛金の支払い、というタイムラグしか考慮していない。
飲食業は、先に料理の材料の仕入をすることに伴う商品廃棄ロスやスタッフを採用して先にマンパワーを準備しなければならず、仕入れた材料がすぐに料理として売却されすぐに現金が回収されるという前提にのみ考えている

という点です。

まとめ

先に商品、材料、人材を準備してからしかスタートできない事業かそれ以外の事業か、という点からの資金繰りにご注意ください。